「1倍」とはかけるいくつか
数学の中で用いる言葉には,よく迷うような表現の言葉が出てきます.同じ日本語でありながら,日常的に用いる言葉と,数学の中で用いる言葉には微妙にニュアンスの異なるものもあるようです.そんな中の一つを紹介します.
普通「倍」といえば,2倍つまり×2のことをいいます.3倍は×3,4倍は×4,….では「1倍」とは×いくつなのでしょう? 倍を重視すると×2,1を重視すると×1になりますね.広辞苑によると,
ばい【倍】
同じ数を二つ合わせること。
いちばい【一倍】
@ある数量と同じ数量。Aある数量を二つ合わせた数量。倍。二倍。
単に「倍」といえば2倍のことをいいますが,日本語的には「一倍」という意味には二つの解釈の仕方があるようです.同じように「倍」という意味を手元にある「数学小事典」で調べてみると,
ばい 倍 times
ただ倍といえば,ふつう2倍のこと.古くは,aの1倍といえばa×2の意味であった.現今ではaのk倍といえばa×kの意味である.→倍増し算
更に「倍増し算」を調べてみると,
ばいましざん 倍増し算
吉田光由の塵劫記の下巻に,「日に日に1倍」と題する次の問題がある.「銭1文を日に日に1倍として,30日に何程になるぞというに,合536870貫912文に成るという也」
ここで,昔は今の2倍を1倍といった.そして1貫は千文のことである.
この場合に,30日目の額は229文,すなわち536870912文である.
この倍増し算については,曾呂利新左衛門が秀吉からほうびを貰う約束をしたとき,米を1粒,2粒,22粒,23粒ずつもらうことにし,秀吉はなんでもないと思ったところ,到底実行のできないほどの量の米になることがわかって太閤もかぶとをぬいだという話がある.印度にもこれと似た伝説がある.
数学では1倍といえば,昔は×2で,今は×1のことをいうようですね.「数学とことばの迷い路」によると,明治になって西洋数学を教えるようになってから×1にしようとしたらしいのですが,どうも「完全」にとはいかなかったらしいですね.
《参考資料》
- 「数学とことばの迷い路」(細井 勉,日本評論者)
- 「数学小事典」(矢野健太郎編,共立出版)